火山
火山カメラは何を見ているのか
このサイトに並ぶ110台のうち、71台が火山を向いています。観光地の展望カメラに見えるものもありますが、 多くは景色を見せるために置かれたものではありません。何のために置かれ、画面の白いものが噴気なのか ただの雲なのかをどう見分けるか、という話です。
火山のカメラは、人が行けない時間を埋めるために置かれている
火山の観測で厄介なのは、変化が起きる瞬間に人がその場にいるとは限らないことです。 地震計や傾斜計は地下の動きを数字で拾いますが、「山頂から白い煙がどれだけ上がっているか」 「噴石がどこまで飛んだか」といった、目で見れば一瞬で分かる情報は数字になりません。 かといって、夜中や吹雪の日に人を火口の縁に立たせるわけにはいきません。
そこでカメラが、人の目の代わりに火口を向き続けます。数分おきに静止画を更新し、 何年分もの「いつもの姿」を蓄えていく。異変が起きたときに意味を持つのは、 その日の画像そのものより、いつもと比べてどう違うかのほうです。 だから多くの火山カメラは、画角を変えません。同じ構図で撮り続けることに価値があります。
観測カメラとしては、これは少し退屈な性質でもあります。ズームもしなければパンもしない。 ただ、そのつまらなさこそが観測装置としての正しさなので、 見る側が「今日はいつもとどう違うか」を探す気で眺めると、急に面白くなります。
白いものの正体を見分ける
火山カメラでいちばんよく映るのは白い塊です。噴気か、雲か、水蒸気か、あるいはレンズの曇りか。 慣れると、いくつかの手がかりで見当がつきます。
- 出どころが動かないなら噴気。雲は風に乗って流れていきますが、 噴気は火口という決まった一点から出続けます。風で形は崩れても、根元は動きません。
- 山肌に沿って上下するなら雲。斜面を這うように現れて消えるものは、 地形にぶつかってできた雲であることがほとんどです。
- 画面全体が均一に白いならレンズ側。着氷、結露、吹雪です。 山の稜線まで溶けて見えなくなっていたら、大気ではなくカメラの問題を疑ってください。
- 朝夕は判断が難しい。逆光で噴気が黒く見えたり、 低い雲が噴煙のように光ったりします。判断に迷ったら、時間を置いてもう一度見るのが確実です。
ただし、この見分けはあくまで眺める側の楽しみ方です。 実際の火山活動の評価は、気象庁や各国の観測機関が地震・地殻変動・ガスなど複数の観測を 組み合わせて行っています。画面が白いことを噴火の兆候として受け取らないでください。 正式な情報は、必ず各機関の発表を確認してください。
日本の火山カメラ
日本のぶんは55台あります。そのうち49台は気象庁が火山監視のために置いたカメラで、 残りが国土交通省の砂防カメラと、環境省が自然観察のために置いたカメラです。 同じ「火山のカメラ」でも、置いた役所が違えば狙っているものが違います。
気象庁 ― 常時観測火山を、1山につき1台
気象庁は、活動の可能性が高い50の火山を「常時観測火山」として24時間見ています。 地震計や傾斜計と並んで、監視カメラもその一部です。 そのうち49の山について最新画像が公開されていて、画像はおよそ2分ごとに入れ替わります。
ひとつの山に何台もカメラがある山もありますが、このサイトでは 1山につき1台だけを選びました。同じ山の似た画角を何枚も並べても 見分けがつかないので、その山らしさが出ている1台に絞っています。 結果として、北はアトサヌプリから南は諏訪之瀬島まで、日本の主な活火山がひととおり揃いました。
気象庁のカメラは、名前のつけ方がそっけないぶん正直です。 「阿蘇山 草千里」は草千里に置かれたカメラという意味で、 観光地の名前がついていても、見ているのは中岳の火口です。 地名だけを見て観光カメラだと思うと、画面の地味さに拍子抜けするかもしれません。
いくつか挙げておきます。
- 倶多楽 登別地獄谷(北海道)— 火口の跡に温泉と噴気が満ちた谷です。火山のカメラのなかでは例外的に、 人が歩く遊歩道まで一緒に映っています。気温が下がるほど湯気が濃くなります。
- 蔵王山 御釜(宮城・山形県境)— 火口に水がたまってできた湖です。天気が変わりやすい場所なので、 水面まではっきり見える日はそう多くありません。晴れた日に当たると得をした気分になります。
- 箱根山 大涌谷(神奈川)— 2015年に活動が高まって立ち入りが制限された谷です。斜面のあちこちから噴気が上がっていて、 「白いものが写っている」状態が平常なカメラの代表格です。
- 御嶽山(長野・岐阜県境)— 2014年の噴火をきっかけに、全国の火山の監視体制が見直されました。 このカメラを含む今の観測網は、その後に整えられたものです。
- 口永良部島(鹿児島)— 2015年の噴火で全島避難になった島を、屋久島の側からも見ています。 人がいない、あるいは少ない場所こそカメラが要る、という例です。
- 青ヶ島(東京)— カルデラのなかにもうひとつ丘がある二重式の島です。 人が住む島としては日本でいちばん人口が少なく、船も飛行機も欠航しやすい場所です。
砂防と自然観察のカメラ
火山を向いたカメラは、気象庁だけのものではありません。 国土交通省は土石流や降灰への備えとして、環境省は自然観察のために、 それぞれ別の理由で同じ山にカメラを向けています。
- 桜島 監視カメラ(鹿児島)— 国内で最も活動が活発な火山のひとつを、砂防事業のために監視しているカメラです。 火山灰や土石流への備えという実務目的があるぶん、画角は火口と流路にきっちり固定されています。
- 嬬恋村からみた浅間山(群馬)— 北麓のなだらかな裾野ごしに山体を捉えます。冬は雪の付き方で斜面の起伏が浮き上がります。
- 万座・空吹(群馬)— 草木の生えない白っぽい斜面から蒸気が上がる噴気地帯です。 火口を映すカメラとは違い、地面そのものから湯気が立つ光景が見られます。
- 南阿蘇からみた根子岳(熊本)— 阿蘇のカルデラの中から、ぎざぎざした稜線で知られる根子岳を望みます。
- えびの高原からみた霧島連山(宮崎)— いくつもの火山が集まった一帯を、高原側から見渡す構図です。
- 富士山 砂防カメラ(静岡)— こちらも観光ではなく砂防のためのカメラで、大沢崩れを含む斜面を見ています。
富士山と桜島だけは、気象庁と国土交通省の両方のカメラを載せています。 重複しているように見えますが、火山監視のカメラと砂防のカメラでは向きも画角も違います。 富士山 気象庁カメラと富士山 砂防カメラを 続けて開くと、同じ山がどれだけ別の顔をしているかが分かります。
なお、気象庁のカメラは動画ではなく、数分おきに更新される静止画です。 「いまこの瞬間」ではなく「数分前」を見ていることになります。 雲が動く速さを追いかけたい場合は、少し時間を置いて開き直してください。
ニュージーランド ― 同じ山を、いくつもの角度から
GeoNet のカメラは11台あり、日本のものとは考え方が違って見えます。 ひとつの山に対してカメラが複数あるのです。ルアペフ山には北・東・南の3台、 トンガリロ周辺にも複数が向けられています。
理由は単純で、風向きによって噴気が流れる方向が変わるからです。 1台だけだと、風下側に立ったカメラからは噴気が手前に流れてきて量が分からない。 複数の角度があれば、どこから見ても比較ができます。同じ日の ルアペフ山 北側とルアペフ山 南側を 見比べると、雪の残り方も雲のかかり方もまるで違って見えて、これがなかなか面白い。
トンガリロ山 テ・マーリ火口は、2012年に噴火した火口を近くから捉えたものです。 タラナキ山は独立峰らしいきれいな円錐形で、 日本人が見ると富士山を思い出す形をしています。 ラウル島は本土から遠く離れた無人の火山島で、 人が常駐していないぶん、カメラと観測機器だけが島の様子を伝えています。
ファカタネ海岸とテカハ海岸の2台は、 山ではなく海を映しているように見えますが、狙いは沖合の火山島ファカアリ(ホワイト島)です。 島まで距離があるので、晴れて視界が良い日でないと分かりません。 海の向こうに小さく白いものが立っていたら、それが噴気です。
ハワイとアメリカ本土
キラウエア火山とマウナロア山は、 アメリカ地質調査所(USGS)のハワイ火山観測所が公開しているカメラです。 キラウエアは2018年の活動で山頂のハレマウマウ火口が大きく崩れ、その後も噴火が繰り返し起きています。 マウナロアは体積では世界最大級の楯状火山ですが、傾斜がゆるやかすぎて、 画面の中では「山」に見えないほど巨大です。
本土側ではマウントレーニア国立公園と クレーターレイク国立公園が火山に分類されています。 レーニアは氷河をまとった成層火山で、山頂が雲を抜けて見える日は多くありません。 クレーターレイクは、大昔の噴火で山が崩れてできたくぼ地に水がたまったものです。 いま静かな水面を見ていると火山だと思いにくいのですが、成り立ちは間違いなく火山です。
見る時間の話
火山カメラは、街のカメラと違って夜はほぼ真っ暗です。街灯も看板もないので、 現地が夜のあいだは何も分かりません。日本のカメラは日本時間でそのまま考えれば済みますが、 海外のものは時差を意識しないと、開いた瞬間に真っ黒な画面を見ることになります。
目安として、日本の朝はニュージーランドの昼過ぎ、日本の夜はハワイと北米西海岸の朝から昼です。 詳しくは時差の読み方にまとめました。
火山のカメラは、劇的な瞬間を見せるためのものではありません。 何も起きていないことを毎日記録し続けることが仕事です。 そのつもりで開くと、静かな画面にも見るものがあります。